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命ある食べ物、命なき食べ物


「いただきます」――その命は、どこにある?

――米・肉・魚・野菜、そしてパンは?――


「いただきます」は、命をいただく言葉だ。

では、あらためて問いたい。

私たちが毎日食べているものの中に、命はどこにあるのか。

そして、命がないものを食べるとき、 「いただきます」の意味はどう変わるのか。


命が、はっきりある食べ物


お米

田んぼに植えられた苗は、 水を吸い、太陽を浴び、育つ。

秋には実をつけ、収穫される。

一粒一粒に、命の記憶がある。

炊き上がったご飯の湯気の中に、 土の匂いと、農家の汗と、 季節の移り変わりが詰まっている。


昨日まで海を泳いでいた。

網に引き上げられ、 氷の上に並べられ、 今、目の前にある。

その目が、まだ澄んでいる魚ほど、 新鮮だと言われる。

命の近さが、目に見える食べ物だ。


鶏、豚、牛。

名前を持ち、 育てられ、 私たちの食卓へやってくる。

スーパーのパックに綺麗に並んでいると、 つい忘れてしまいがちだが、 確かに生き物だった。

「いただきます」の重さを、 一番感じさせてくれる食べ物かもしれない。


野菜

土から引き抜かれた瞬間まで、 根を張り、水を吸い、生きていた。

トマトが赤くなる過程。 キャベツが葉を重ねる過程。 それはすべて、命の営みだ。


これらは疑いなく、命ある食べ物だ。

「いただきます」は、 この命たちへの言葉として、 まっすぐに届く。


では、パンはどうだろう


小麦も、もとは植物だ。

穂が実り、収穫され、 製粉され、粉になる。

その時点では、まだ命の欠片が残っている、とも言える。


でも、パンになる過程で何が起きるか。

小麦粉に、水、塩、イースト(酵母)を混ぜる。

こね、発酵させ、高温で焼く。

焼かれた瞬間、形は大きく変わる。


ただ、ここで面白いことがある。

イースト(酵母)は生きている。

発酵とは、酵母が糖を食べて、 二酸化炭素を出す営みだ。

つまり、パン生地が膨らむのは、 酵母という微生物の生命活動の結果だ。

天然酵母のパンなら、なおさらそうだ。

パンには、命の痕跡がある。


加工食品は、どうか


カップラーメン。 ポテトチップス。 コンビニのお惣菜。 冷凍食品。

これらには、もともと命ある素材が入っている。

小麦、じゃがいも、肉、野菜…… すべて出発点は命だ。


でも、加工の過程で何が起きるか。

高温処理、添加物、長期保存のための加工。

「食品添加物」と呼ばれるものの多くは、 自然界には存在しない化学物質だ。

着色料、保存料、乳化剤、増粘剤……

これらが加わると、 食べ物の中の命の気配は、どんどん薄れていく


極端な話をすれば、 賞味期限が数年あるものは、 菌も分解できない、ということだ。

菌でさえ食べられないものを、私たちは食べている。

そう考えると、少し怖くなる。


命の濃さ、というものがあるかもしれない


命ある、か、命なし、か。

その二択ではないのかもしれない。

命の濃さ、みたいなものがあるのかもしれない。


今朝採れた野菜は、命が濃い。

天日干しした干物も、命が残っている。

石臼で挽いた全粒粉のパンも、命の痕跡がある。

でも、 着色料と保存料まみれのスナック菓子は、 命の気配が、とても薄い。


僕は栄養や食の質について、 ずっと関心を持ってきた。

「何を食べるか」は、 「どう生きるか」に直結すると感じているからだ。


子どもたちに伝えたいのは、 難しい栄養学ではない。

ただ一つ。

「これは、どこから来たものだろう?」

と、一度だけ考えてみてほしい、ということだ。


この野菜は、どこの土で育ったのか。 この魚は、どの海を泳いでいたのか。 この加工食品は、何が入っているのか。

考え始めると、 食事が変わる。

選ぶものが変わる。

そして、 「いただきます」の言葉の重さも変わる。


命なきものを食べるとき


では、加工食品を食べるとき、 「いただきます」は意味がないのか。

そうは思わない。


どんなに加工されていても、 その出発点には、 必ず命があった。

それを忘れないこと。

コンビニのおにぎりを食べるときも、 カップラーメンをすするときも、

「これはどこかで命だったものだ」

と、頭の片隅に置いておく。

それだけで、 「いただきます」の言葉は、 ちゃんと意味を持つ。


命の濃いものを食べようとすること。 命の薄いものばかりに頼らないこと。

それは、 自分の命を大切にすることと、 つながっていると思う。


食べることは、生きること。

何をいただくかは、 どう生きるかだ。

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