花火大会、中止の裏側 ― 有料化の先に、失われていくもの ―
夏の夜空を彩る花火大会。ふと気づくと、今年もあちこちで「有料席」の案内を目にする機会が増えました。同時に、「今年は中止です」というニュースも各地から聞こえてきます。今回は、教育者として、そして25年間子どもたちと向き合ってきた立場から、花火大会を取り巻く変化について、調べたことをもとに考えてみたいと思います。
■データが示す「有料化」の実態
帝国データバンクの調査によると、全国で夏に開催される主要な106の花火大会のうち、実に8割にあたる84大会が観覧エリアに有料席を導入しているそうです。さらに、そのうち45大会では今年、有料席の価格が値上げされ、最上位クラスの席は平均で4万円を超える水準になっているといいます。有料席の価格は、この4年間でおよそ2割上昇したというデータもあります。
かつては「場所取りの手間を省きたい人向けのオプション」だった有料席が、今や大会運営そのものを支える重要な収入源になりつつある。これが、今の花火大会の一つの姿です。
■なぜ、花火大会は中止に追い込まれるのか
一方で、中止や休止に追い込まれる大会も少なくありません。背景にあるのは、警備費や資材費の高騰です。ある地方都市の花火大会では、コロナ禍前と比べて開催費用が総額で3000万円ほど増加し、その内訳を見ると、警備費だけで2.6倍にまで膨らんだという報告もあります。火薬の原材料価格も、世界情勢の影響を受けて上昇を続けており、ある花火製造会社の代表は、材料費がここ数年で2割ほど上がったと語っています。
加えて、長年ボランティアで大会を支えてきた実行委員会メンバーの高齢化や、運営スタッフの担い手不足も深刻です。地域の祭りとして続いてきた花火が、「誰かの善意と負担」の上に成り立っていた時代から、その仕組み自体が限界を迎えつつあるのだと思います。
■花火は誰のものだったのか
ここで、私自身が疑問に思うのは、花火大会の「本来の姿」です。もともと花火大会は、地域の企業や商店が協賛金を出し合い、住民みんなで夏の夜を楽しむ「地域の風物詩」として続いてきたものだったはずです。企業にとっては、花火大会への協賛は直接の利益を生むものではなく、地域への恩返しや、地元とのつながりを大切にする姿勢の表れだったのではないかと思います。
もちろん、有料席という選択肢自体を否定するつもりはありません。混雑や暑さを避けたい人、快適に楽しみたい人にとって、有料席は一つの合理的な選択でしょう。ただ、無料で楽しめるはずだった場所までもが次々と有料エリアに姿を変え、「お金を払える人」と「そうでない人」との間に、見える景色の違いが生まれつつあるとしたら、それは花火大会が本来持っていた「みんなで空を見上げる時間」という価値から、少しずつ離れていっているのではないか、という疑問が残ります。
■子どもたちに伝えたい、本当の豊かさ
サッカーの指導をしていても、塾で子どもたちと向き合っていても、いつも感じることがあります。それは、「お金で買えるもの」と「お金では買えないもの」を、子どもたち自身が見分ける力を持ってほしいということです。
花火大会が直面している今の状況は、大人の社会が抱える課題そのものだと思います。運営を続けるための現実的な資金確保と、誰もが平等に夜空を見上げられる場を残すこと。このバランスをどう取っていくのか、簡単な答えはありません。ただ、少なくとも子どもたちには、「みんなで同じ空を見上げて、同じ瞬間に『わあ』と声を上げる」という体験の価値を、これからも大切にしてほしいと願っています。
夏の夜空に打ち上がる一発の花火に、そんなことを考えさせられた今年の夏です。
歩実塾 倉敷北畝校 塾長 瀧