3つの物語で読む
こんにちは、倉敷市北畝の歩実塾です。
「平家物語って、古文だから難しそう」
そう感じている中学生も多いかもしれません。
でも現代の感覚で読んでみると、
命がけの一発勝負、
敵を前にした葛藤、
そして一つの時代の終わりなど、
まるで映画のような場面が次々に登場する、意外と面白い物語です。
今回は「那須与一」「敦盛」「壇ノ浦」という3つのエピソードを紹介します。
①那須与一:「絶対に外せない」一発勝負
平家物語の中でも特に有名な「扇の的」の場面です。
舞台は源氏と平家が戦う屋島。
海上の平家の船に現れた女性が、
竿の先に扇を掲げて「射てみろ」と源氏を挑発します。
選ばれたのは若い武将・那須与一。
揺れる船、吹きつける風の中、
馬に乗ったまま遠くの小さな的を狙わなければならず、
失敗すれば大恥をかくというプレッシャーがのしかかります。
海上の平家方も、陸の源氏方も、
誰一人として声を出さずに固唾を飲んだ。
味方も敵もなく、ただ「この一矢が当たるか外れるか」だけを見つめる静寂の中、
<現代語訳>
「これを射損じれば、弓を折り、腹をかき切って、再び人にまみえる心はありませぬ。
いま一度本国へ帰そうとおぼしめされるならば、この矢を外させたもうな。」
「南無八幡大菩薩」と念じ、弓を引いた与一は、見事に扇を射抜きました。
サッカーのPKや、野球の一打逆転打席のような
「絶対に失敗できない」場面に重ねると、
その緊張感が少し想像しやすくなるのではないでしょうか。
②敦盛:「敵なのに、殺したくない」
一転して、静かで重い場面です。
源氏の武将・熊谷直実は、戦場でわずか16〜17歳の武士を捕らえます。
それは平家の平敦盛でした。
まだ少年のような若者の顔を見た直実は、
同じくらいの年齢の息子がいたこともあり、
「敵だから討たねばならない」という思いと
「こんな若者を本当に殺していいのか」という思いの間で苦しみます。
<現代語訳>
熊谷は涙を抑えて、
「お助けしようと思いましたが、味方の軍兵が雲霞(うんか)のように近づいております。
よもや逃れる事はできないでしょう。
他人の手におかけ申すよりは、同じことなら直実の手におかけ申して、
後できっとご供養いたしましょう。」と申したところ、
「ただ、早く首をとれ」とおっしゃった。
平家物語のすごいところは、
「源氏=正義、平家=悪」という単純な構図ではなく、
敵にも家族や夢があり、
一人の人間であることを描いている点です。
直実は最終的に敦盛を討ちますが、
その後、戦いの前に平家の陣から聞こえていた美しい笛の音が、
敦盛自身のものだったと知ります。
「こんな雅な笛をたしなむ若者が、戦場の真っ只中に身を置いていたのか」
という気づきが、直実の悲しみをいっそう深くします。
のちに熊谷直実は、この敦盛の最期に深く心を痛めて出家し、
僧侶となって敦盛の供養を行ったと伝えられています。
③壇ノ浦:平家、最後の戦い
物語はいよいよクライマックスへ。
源氏と平家の戦いは瀬戸内海の壇ノ浦にたどり着き、
平家にとって最後の大きな戦いとなります。
戦況は次第に源氏へ傾き、
かつて「この世の春」とまで言われた平家は滅亡へと追い詰められていきます。
平家の敗北を悟ったとき、
安徳天皇の祖母・二位尼(にいのあま、平時子)は、
当時満6歳の安徳天皇を抱き上げると、
「波の下にも都のさぶらふぞ(波の下にも都がございます)」と語りかけ、
幼帝を抱いたまま海に飛び込みました。
平家一門の運命とともに海へ向かう様子は、平家物語の中でも最も悲しい場面の一つです。
「諸行無常」とは何か
平家物語の冒頭には
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」
という有名な一節があります。
簡単に言えば「この世の中に、永遠に変わらないものはない」という考え方です。
どれほど強い人でもいつかは年を取り、どれほど栄えた一族でもいつかは衰える。
「平家にあらずんば人にあらず」
とまで言われた平家の栄華も、永遠には続きませんでした。
800年前の物語が、今でも面白い理由
平家物語が今も読まれ続けている理由は、
そこに描かれているのが「平安時代の人」ではなく
「人間そのもの」だからではないでしょうか。
緊張する、怖くなる、迷う。
敵を倒さなければならないのに、相手にも家族がいる。
強い人にも最後があり、栄えているものにも終わりがある。
こうした感情は、800年前も今も、それほど変わらないのです。
歩実塾から:古典は「暗記」だけでは面白くない
現代語訳を確認したり文章を覚えたりすることも大切ですが、
その前に「この人はどんな気持ちだったんだろう」と想像してみてください。
「外したらどうしよう」という与一の緊張、
「まだ死にたくない」という敦盛の思い、
「殺したくない」という直実の葛藤、
そんなふうに考えてみると、古文の文章が、
急に生きた「物語」に変わってきます。