過去の生徒について⑤
―“勉強しない子”が、夢を見つけて走り出した日―
これまで、たくさんの生徒たちと関わってきました。
その中で、特に印象に残っている一人の男の子がいます。
「勉強ができる」とか「テストで点を取れる」とか、
そんな言葉とは少し違う場所で輝いていた子でした。
絵を描き、紙を折る日々
その子が塾に来たのは、中学2年生のとき。
母子家庭で、お母さまと二人の生活をしていました。
塾に来ても、机に向かって勉強をすることはありませんでした。
ノートを開く代わりに、絵を描いたり、紙で何かを作ったりしていました。
でも、私はそれを無理に止めようとは思いませんでした。
「今は、その子にとって必要な時間なんだ」と思っていたからです。
悪いことをするわけでもなく、
ただ、静かに自分の世界を楽しんでいるような子でした。
成績は“2”ばかりでも
通知表を見ると、ほとんどが「2」。
正直、勉強は得意ではありませんでした。
それでも、その子には確かな“感性”がありました。
どこか不器用で、言葉では表せない優しさと繊細さを持っていたのです。
不合格のあとに見えた、新しい道
中学3年のとき、彼は「自動車の勉強ができる高校に行きたい」と言いました。
しかし、第一志望の県立高校には残念ながら不合格。
それでも、諦めずに私立高校を受験し、見事合格。
志望校ではありませんでしたが、そこにも“自動車整備士”を学べるコースがありました。
彼はそこで、自分の好きな世界に出会いました。
「先生、大学に行くことになりました!」
高校に進学してから、
あれほど勉強をしなかった彼が、どんどん前向きになっていきました。
自動車の勉強が楽しくて、成績も上位に。
そして、ある日、久しぶりに塾に立ち寄ってくれました。
開口一番に彼が言った言葉が、今でも忘れられません。
「先生、大学に行くことになりました!」
思わず、胸が熱くなりました。
あの頃、絵を描いていた彼が、
自分の未来に向かって、まっすぐ走り出していたのです。
子どもは「きっかけ」で変わる
この経験から改めて感じたのは、
子どもは「できる」「できない」で判断してはいけない、ということです。
興味を持てることに出会えば、
誰だって変わることができる。
あの子が見つけたのは、「好き」が導く努力の力でした。
歩実塾より
子どもたちが、自分の「好き」を見つけ、
その中で努力を覚え、夢を描いていけるように。
私たちは、勉強だけでなく「生き方」を共に考える場所でありたいと思っています。
勉強が苦手な子でも大丈夫。
その子の中には、まだ眠っている力が必ずあります。