過去の生徒について②
―「できない」じゃなく、「まだできていない」だけ―
これまでたくさんの生徒たちと関わってきましたが、
その中でも特に印象に残っている一人の男の子がいます。
彼が塾にやってきたのは、中学2年生のとき。
少し落ち着きがなく、突拍子もない言動をすることもありました。
学力的には決して高くありませんでしたが、どこか憎めない、
そして根の部分ではまっすぐで一生懸命な子でした。
塾が“居場所”になった日々
家では落ち着かないのか、塾が終わってもなかなか帰ろうとせず、
いつも最終の22時まで残っていました。
私の机の前に椅子を持ってきて座り、自習をしながら話しかけてきたり。
「勉強を教える」というより、
一緒に“時間を過ごす”感覚に近かったかもしれません。
言い合いになったり、行動を止めようとして
掴み止めるような場面もありました。
でも、そんな毎日が不思議と嫌ではなかったんです。
ある日なんて、自習室に閉じこもり、
机を内側から並べてバリケードを作り、
その机を卓球台代わりにして、二人で“卓球大会”を始めたこともありました。
もちろん、注意してもまったく聞かない(笑)。
でも、今思えば、それも彼なりの「関わり方」だったのかもしれません。
変わる瞬間
中学3年の後半。
進路の話をする中で、彼は行きたい高校を見つけました。
その日から、目の色が変わりました。
「この高校に行きたい!」
その気持ちが、勉強への原動力になったんです。
中学の担任の先生からは、
「その高校は無理だからレベルを下げたほうがいい」と言われていました。
でも、私は彼の模試の結果と、何より“やる気の変化”を見ていました。
「大丈夫。君なら行ける。」
そう背中を押して、志望校を変えずに受験しました。
そして、見事――合格。
あのときの笑顔、今でも忘れられません。
「できない」ではなく、「まだできていない」
彼を見ていて思ったことがあります。
子どもたちは、誰もが「変わる力」を持っているということ。
できないのではなく、
“まだできていないだけ”。
環境や人との関わり、そして心のスイッチが入った瞬間に、
驚くほどの成長を見せてくれます。
塾という場所が、そんな“変化のきっかけ”になれるように。
これからも、一人ひとりのペースで前に進む姿を
見守っていきたいと思います。