過去の生徒について①
― 心が追いつくまで、ゆっくりでいい ―
過去に関わってきた生徒の中で、今でも心に残っている子がいます。
ある男の子。彼が教室に来たのは、小学5年生の頃でした。
優しくて、素直で、どこか繊細な心を持った子でした。
お母さまと二人暮らしで、お母さまはお仕事が忙しく、夜遅くまで帰れない日が続いていました。
自然と、彼には自由な時間と自由なお金がありました。
その自由さが、彼を少しずつ迷わせていったのかもしれません。
小学6年生の時、学校でいじめがありました。
それをきっかけに、学校へ行く日が少しずつ減り、
やがて、塾でも苦しさがあふれて泣くこともありました。
お母さまと何度も面談を重ねました。
そして本人とも、何度も何度も話をしました。
「大丈夫。きっと変われる。」
そう信じて迎えた中学生活のスタート。
最初は部活動にも参加し、笑顔が戻っていました。
けれど、怪我をきっかけに再び登校できなくなり、
夜はゲームにのめり込み、昼夜が逆転し、
お菓子を食べながら過ごす日々が続きました。
身体が重くなり、心もまた沈んでいく。
見ていて苦しかったです。
中学3年生になると、出席日数も足りず、
通常の高校への進学は難しい状況になりました。
それでも、通信制高校への道を選び、
新しい目標を見つけ、少しずつ前を向くようになりました。
そして、高校生になると、身体の成長とともに心も落ち着きを取り戻し、
今ではすっかり、一人前の大人として社会に立っています。
人の成長には、「心が追いつくまでの時間」があります。
焦らず、見守り、支えてあげることで、
その子の中に眠る力が、いつか静かに芽を出すのだと思います。